インタビュー企画

まっすぐ進めない、二足のわらじ、別にいいじゃない!
多様さが許容される環境の中で真面目に突き進みたい

千住Art Path 2015委員長・松浦知也さん

Art Path委員長・松浦知也さんは、現在学部3年生。プロジェクト3にて熱心に学ぶ傍ら、今回はArt Pathについて、そして音環(音楽環境創造科の略)について、誰よりも真剣に考えてきました。そんな姿から、実は「ブキヨウだけど伝えたい」というキャッチコピーが一番似合う人物だとも言われているとか。 今年度委員長として先頭に立つ松浦さんは、多種多様で内情が分かりにくいと言われる音環を一体どのように眺めているのでしょうか。在学生だから言える素直な意見を聞かせてくれました。

バラバラだからこそ許されること、できること

―――「結局ここで何をやっているの?」「なんでそんなことやってるの?」という質問はこれまで何度もされてきたと思いますが、松浦さんは音環のことをどのように説明しますか?

やっぱり普段は形式的な説明になりますね。6つのプロジェクトがあって、作曲、アートマネジメント、録音、身体表現、文化社会学、音響心理をやっているという。あとは「藝大のクラシック以外の部分を全部放り込んだところです」という説明で終わるんですけど、時間があったらもう少しちゃんと説明したいなというのはいつも思っていて。音環自体がもともと色々な分野の人たちが有機的に反応するのを期待して作られたのか、寄せ集めで作られたのかは分からないけど、バラバラな分野の人たちが一緒にまとまってやるという機会はなかなかないから、それが音環のすごくいいところだと思うんですよ。
僕が音環を受験する時に(音環生である)高校の先輩が一番最初に言っていたのは、「音楽はもう音楽そのものだけで成り立っていくことは多分できないから、周辺のそれに関わる領域を総合的に勉強して、音楽とか音の可能性を広げていかざるを得ない」という話で。初めて聞いた時は「音楽ってそんな弱々しいのか?」と思ったんですが、入学してから音環の持つ広い範囲を色々勉強して…今は先輩の言ってたことがしっくりきてます。視野が広がるからこそそういう言葉が出てくるのかなと思います。音環を説明しろと言われてパッと思いつくのはやっぱりその話ですね。

松浦さんはプロジェクト3で音響を専門にしていますが、音環に入る前から、大学では音響関係のことをやりたいと思っていたのですか?

うーん、そのへんはけっこう微妙なところで…今はわりと作品をちゃんと作りたいと思っている人間ではあるんですが。これは音環の他の人たちにも言えることかどうか分からないけど、“あわよくば思考”的なのって、あるじゃないですか(笑)。「普通に美大とか芸大に飛び込んでいく勇気はないけど…」みたいな。微妙な言い方をすれば潰しが利くということかもしれないけど、今はそれが許される時代というか、むしろ二足のわらじを履いて生きていくことがどんどん当たり前になっていくような気がしていて。それはそれで、そこまで否定することでもないなと最近は思うようになってきました。
もともと僕は理系で、ギターは弾いてたんですけどエフェクターいじる方が好きだったんです。入試では作曲のようなこともしましたが、それでもプロ1(プロジェクトの略)とプロ3のどっちに入るか決めかねてました。そんな時に音環の先輩と「エンジニアも結構アーティストっぽくなるところがあるよね」という話をしていて。一昔前には職人芸のような意味でのアーティストに近いエンジニア、ということは多かったと思うんですが、「エンジニアだけど時々アート作品も作る」というような人も最近はどんどん増えているから、そういうことが許容される環境になってきているのはすごくいいことだなと思います。

―――音環に入って、バラバラな分野の人が集まっているからこそよかったと思ったことはありますか?

それは具体的にパッと挙げるというより、全体的にフワッと感じてるかな。例えばプロ1とプロ3が大学院の映像研究科のアニメーションの音楽と音響でコラボしたりするけど、どちらかというとそういう表面的なコラボというよりは、普段の他愛ない会話とかで…。
やっぱり“音響分野の人だけで集まっている学校”と“普段からいろんな話ができる音環という環境”は全然違うのだろうなと思いますね。一番大きいのは気づかないようでそういうところなのかな。音環自体はプロジェクトごとで結構縦割りになっていると言われているけど、それでもここにひとくくりで放り込まれている意味はあると思っています。

真面目に変なことをやってる、ふにゃふにゃでブキヨウな奴ら

―――音環生の普段の生活ってどんなものですか?

他の大学や学科と比べて特徴的なことというのはよく分からないけど…まず独特なのは、プロジェクトの授業ですかね。1年次からゼミに配属される大学はあるにはあるだろうけど、プロジェクトとゼミはちょっと違うだろうし。そもそも芸術系だとゼミっていう形にはならないでしょうね。音楽でいう“門下”って感じもなくはないけどやっぱり一応研究に近いし、でも普通の大学とも違うし、普通の芸大とも美大とも違うのだろうなと思います。
あとは、なんだかんだ結構真面目な話をよく喋ってるかな。音環生って大体“一般的な大学生が盛り上がる時のノリ”的なものに素直についていけないというか、“(笑)”みたいに感じてしまうことが多いようなんですけど、それは普段から真面目な話をしているからなのだろうなと思います。特に目的はないのに、何故か最終的に真面目な話になっちゃってることが多いですね(笑)

―――3年間音環に在籍してみて、音環生ってどんな人が多いと思いましたか?

どこと比べるかで見え方は変わりますが…藝大の中だと、音環生はわりと常識人な方だと思うんですよ。でもやっぱり他の一般大学のようなところから見ると、「何やってるのか分からない」と言われがちなところもあるし。結局、「真面目に変なことをやってる」って感じなのかなと思います。ただ単に真面目なだけなら多分ここまで来ないなという気もしますね。音環生って、入学したはいいが(他の藝大生や同年代などに対して)よく分からないコンプレックスみたいなものを背負ってしまう人が結構いるんですよ。でも、それってある意味音環生の特性をよく表していると思います。今年度Art Pathのチラシデザイナーさんたちとも、「少なくともまっすぐ進んでいる人たちではないよね」という話をしていて。「Art Path の“小道”はふにゃふにゃだ」みたいな話からあのようなロゴになったんです。「まっすぐじゃないけど別にそれでいいじゃないか」みたいな気持ちが共通してみんなにあるかな。とは言え、「まっすぐじゃないことを認めてはいけない、受け入れるのはどうなんだよ」みたいな感じもあったりするんですけどね(笑)
キャッチコピーの”ブキヨウ”という意味も比較の仕方によってどうとでも解釈できて。実際に辞書で調べると、単純に「手先が不器用」とかいう使われ方でしか載っていないんだけど、例えば「人生が不器用」みたいな形でも使うじゃないですか。「じゃあ結局”ブキヨウ”って何なの?」ってところまで含まれているんだと思います。音環生の中には比較的「器用な生き方してるな」っていう人も多分いるし、「こいつは不器用だな」みたいな人もいるし。そのへんの曖昧さも含めて「とりあえず全員“ブキヨウ”でくくるか」みたいな(笑)そういうところが実は面白いんじゃないかと思って。自分たちにとって“ブキヨウ”は不名誉なことではないと思っているし、ネガティブなことでもないし自己弁護でも免罪符でもないと思っていたいなという気持ちですね。

委員長として、発表者としてのArt Path

―――松浦さんの考えるArt Pathの面白さとは何ですか?

一言で言うと、バラバラなところとまとまっているところですかね。コンサートあり展示ありプレゼンありで、イベントとしては恐らく取手Art Pathより更によく分からないものだとは思うんですけど。「じゃあ何故そんなにバラバラなのか」「本当にまとまっているのか」という観点で見ていくと、いろんなものが繋がってくるのではないかという気がします。自分が受験生としてArt Pathに来た時は作品っぽいものに目が行きやすかったけど、かと言ってプロ6のような理系にも近い研究の発表が仲間外れなわけではないということを今回のお客さんに感じてもらえれば嬉しいですし、僕は僕で展示の仕方を頑張っていかないとなと思っております。

―――委員長である松浦さんは、作品を出す側も主催する側も経験しているわけですが、その中で実際に大変なことは何ですか?

単純に時間が足りないのはつらい(笑)…というのはもちろんあるし、人をまとめる能力の無さもつらいなと思っちゃいますね。だんだんそれが分かってきたからこそ、早めにやれることはもっと色々あったのになと思うし。それを来年にきちんと引き継いでいけるといいですよね。見えない部分の問題だけど。真面目にやれば何でも大変ですよね。

―――今年度のArt Pathにおいて、何かこだわったことなどあれば教えてください。

自分の千住 Art Pathの印象として、3年前に見る側としてArt Pathに来た時の(チラシやホームページデザインに使われた)羊のイメージが強かったんですね。でも作る側となった今は、あまりイメージを付け過ぎない方がいいのかなと思っていて。ただでさえバラバラな学科だから、無理矢理イメージを決めるよりは、「分からないまま進みつつだんだん形をこねて整えていく」くらいの方がちょうどいいよね、という話を執行部でもしていたんです。だから今年は何年か続いていたPVを無くしたり、タイポグラフィーのロゴにしたりして。イメージを固めすぎない方が長い目で見ると音環にとってはいいのかなという気はしております。それから、これは言っても仕方ないかもしれないけど…今年は“外向け”にもいろいろ頑張りましたが、どちらかというと“内部のやる気問題”の方を普段から考えていたような気がしますね。それが表面上に現れていなくても、結果に現れるといいなと思っています。ここ数年、「ただ発表するだけして終わり」ではもったいないから「わざわざ人に見せるのは何故なのか」などを考えながらやりなさいと、先生方から言われているんです。それが学生全員に伝わり切るのは無理にしても、去年や一昨年よりも増えていれば嬉しいですね。

参考:2012年の千住 Art Pathのフライヤー